きいろのカーテン

パリで暮らす

定期券

仕事上がり、帰り支度を終えたら、自分で注いだビールを手に、そろそろとカウンターの端の席に座る。すでに枝豆と茶碗蒸しとそしてクレームブリュレが、柔らかい木目のカウンターに並べられている。

 

どれくらいの時間をかけて一杯のビールを飲み終えたのか、まだ灯りの残るお店を出る。駅は路地を抜け、鋭利な曲がり角を折れればすぐのところにある。

この曲がり角のところには、いつもいるおじいさんが寝袋にはいってすっかり寝入っていた。

横断歩道を渡り、メトロへの階段を下る頃には、少し駆け足になる。駆け足になりながら、ポケットの定期券のプラスチックケースに手を触れる。

改札は定期券をかざしてから、バーを回転させて入ることができる。そのままの勢いで、かざすと同時にバーに手を掛けたところで、ぐんと前につんのめった。通らない時のブザー音が鳴った。何回かざしてもジッジーという音が響く。

たまに磁気が反応しなくなるのはよくあることだ。改札の窓口に後戻りをして尋ねると、駅員の女性は定期券を確認して、もう有効じゃない、と言った。

はっとして、時計を見る。12月がもう30分経っていた。

日本では期限日の終電まで有効だったけれど、こちらの定期券は月を跨いで、きっかりリセットされるものらしい。

券売機でチャージをしていると、後ろでいくつものブザー音が響いている。

つっかえた人たち。わたしと同じように何度もかざす人、戸惑いながら窓口へ向かう人、すぐに券売機へ戻る人、そして階段から駆け降りてきた人がまたブザー音と共につんのめる。だんだんとたのしくなってくる。

皆12月の始まりに立っていた。

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◻︎定期券Navigoは、その月の最初の日から最後の日までが有効。その月の、どの日に買ったとしても。

◻︎新しい職場で働きはじめました。