きいろのカーテン

パリで暮らす

ひと月前の記ー8月の4

8月26日 月

エクレアを食べながら「北ホテル」を観た。音楽や古い映画特有の音がよかった。 サンマルタン運河の風景が全然変わっていなかった。開閉式の橋も同じ。終わりの方、最後に死ぬ男だけが不幸のような気がして、少し悲しくなる。

8月27日 火

無花果500gを食べきった日。熟しすぎた、どきりとするほど赤い無花果、甘くて、でも急がないといけなかった。フレッシュなチーズ(味はヨーグルトに似た)と一緒に食べるのが合う。赤さは甘さ、とてもよかった。

 

8月28日 水

午後からルーブルへ。ルーブル近くのカフェでタピオカジュースを飲んでから。このタピオカ、はじけると中からとろっとしたマンゴーソースが出てくる不思議な触感だった。
額縁だけを展示してある部屋があり、まるで絵画が怪盗によって盗まれてしまったようだった。ジョルジュ・ド・ラ・トゥールの「大工の聖ヨセフ」の絵がよかった。子がもつキャンドルに照らされた暗闇、子の手の内側の光が指から明るく透けている。そして、今日の目的の絵画は「ダイヤのエースを持ついかさま師」。目つきの悪さ、衣装の美しさ。実際に見て、なぜか人が足りないような気がしてしまった。何かの絵と間違えているのか。

絵画を見ているといつも思う。何が心に残るのか、何を心に残すのか。

 

8月29日 木

シッター再開。Sちゃんの家には、友達が遊びに来ていたので、2人と遊ぶことに。おやつに、ドーナツ作りをした。二人はボウルの生地を粘土のようにして遊んだり、油の近くによってきて揚げたがったり。その時に、子に託すことも大事だと思った。先に危険を全て摘み取るなんてできないから、子を信頼して、子が自分でやることが大切だと思った。自分が怖がりすぎていて、びっくりした。真ん中の空いた丸いドーナツは一つもできなかったけど、二人はヌテラやカラフルなトッピングチョコを付けて、賑やかに食べ終えた。なんというか、子の目の前の興味に向かっていく姿を見ているうちに、久々に強制的吹っ切れ状態に。こんな世界があるのかといつも思う。
帰ってからはタコライスを作った。食べ終えたあと、洗ったシーツを敷かなくてはいけなかったのに、敷くという行動に移れないまま、掛布団やソファでうとうとした。体がくたくたとなっていた。裏の部屋の窓から、涼しい風が吹いていて、足が心地よかった。

 

8月30日 金

今日もシッターは午後から。一緒に「崖の上のポニョ」を観た。ジブリは子の心をつかむなあ。子と関わるといろいろ驚くことが多い。子の世界を、大人の目で、大人の世界観で見るなんて意味がない。
帰りは5番線で帰ったので、ブーランジェリーUtopieに!2つケーキを買った。夕飯後食べてみると、おいしかったのだけど、期待が大きかった分、すかっと肩すかしに合った気分に…。やはり私はチョコレートしかデザートだと認識できないのかもしれない…。ともかく、やりたいことはやったほうがいいと突然思った。こんなものかと思うことも、やってみないと生まれないから。
あと、ブログに一部書き写すと決めてから、外の目を感じるようになってしまったら、意味がないな。そしたら、やめたほうがいい。

 

8月31日 土

トラムの駅に行く途次で、捨てられた木製の棚を見つけた。柱がかわいかったのだけど、そこで拾わなかった。帰りに通った時には、もうなくなっていた。
夜は子牛のステーキにゴルゴンゾーラソースを。肉はほのかに桃色でやわらかかった。スーパーで色々買い込んだので冷蔵庫と戸棚が満ちて、かんたんに豊かな気分に。

 

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8月30日 風のよく入る窓、日中は緑がそよぐ

 

ひと月前の記ー8月の3

8月19日 月

ベルシー公園でポテチ2袋、ビールでお腹満ちて帰宅。近所のブーランジェリーがバカンスを終えてひらいていた。ガトーショコラとミロワールショコラ、そしてバケットを買う。うれしいけど、一抹のさみしさも。季節は進んでいる。
◆miroirは鏡の意味で、鏡のようにつやつやにチョコレートがコーティングされたショコラケーキ。とても好き。

 

8月20日 火

アドラー心理学の『嫌われる勇気』を読み終えた。過去も未来も関係なくて、「いま、ここ」しかないこと。今から始められるすがすがしさと、ライフスタイルを変えることの少しのダルイかんじ。かんたんなことではないけど、もう少し深めていく。(ライフスタイルをライススタイルと書きたくなる。米か。)
午後おそく、メラトニン(Cさんに聞いた睡眠サプリ)を買いに行くべくお出かけ。ファーマシーへ。初めてBulyを見つけて、ハンドクリームをつけてみたら歯磨き粉だった。外の噴水で洗ったけど…。帰りに、モスケをはじめての所から眺める。静かで美しい。知らない祈りのあるところ。

 

8月21日 水

ランドネマスターのGさんと、Tさんとランドネをした。セーブル美術館からヴェルサイユまで約3時間。池がよかったな。いいにおいがした気がする。夜はコロンビア料理を食べた。

 

8月22日 木

夕方にYさんとLa Villetteで会った。日差しの強いのに疲れた。ビールが体にへんに染みてしまう感じ。

 

8月23日 金

夜はTさんと共に、Cさんの家に。建物の中庭に建てられたフシギなお家。バカンス期間だけ預かっているという猫のwifiはノラ猫のように気ままだった。
ネコアレルギーがひどくて悲しい。帰りはAusteritzaまで歩いて、あとはバス。バスがケバブのにおいだった。

 

8月24日 土 晴れ

ランドネをしてからたぶんつかれ気味でした。夜は高校時代を突然思い出して切なくなっていた。

8月25日 日 晴れ

朝7:00にアラーム。今朝は起きて散歩に。やってみて、そして考えようと思って、よかった。涼しくてまだ日が馴染んでいない世界。セーヌ川に映る青さ。ベルシー公園まで。草に朝露かな、濡れていた。短パンで行ったので、太ももがモウモウと蕁麻疹になった。いつも池にいる鴨たちが、芝生で休んでいたり、草をかじかじしていたり。小鴨は大人鴨の引率のもと、影に佇んでいた。Bercy Villageはパン屋だけ開いていて、バケットを購入。
昼過ぎにアリーグルマルシェへ。野菜、果物、チーズを買う。暑い日だった。日差しが目にのこってる。帰って「嫌われ松子の一生」をみた。一生、だった。何をしてくれたかじゃなく、何をしたか。いつくしみ深きの聖歌が流れた。よい映画だった。見入っていた。はげしかったな。
不安ばかりにとりつかれないようにしようと思った。

 

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8月20日 これはいつもの所から眺めたGrande Mosquée de Paris

ひと月前の記ー8月の2

8月12日 月

朝は夢ノートを書いた。夢ノートに書くことで、書いている今が現実だと思えていいかも。
夕方に雨がやんだので散歩に出る。ところどころで銀色夏生つれづれノート①』を読む。少し寒く、それでももう雨は降らなかった。最後に座った池の前ばかり、今は思い出す。鴨の子もいた。3羽で池の真ん中の四角いところでくっつき合っていたり、パン争奪戦をしていたり、水しぶきなどにぎやかった。お尻が冷えるから小さいクッションでも欲しいと思った。銀色さんの文章で、私の心が机に向かえば、ほかは平気でありたい的なことが書いてあった。それが今を生きるということか。今が平気であればそれで良い。

 

8月13日 火 くもり・雨

午後買いものに出るときポストを覗いたら、私宛とTさん宛の私からのハガキ。ロンドンから送ったもの。(なんとTさん宛の方、スタンプすら押されていない。)
お腹すいて、早めにベルヴィルへ。中華屋さんで空心菜、マーボー豆腐、焼きギョーザ、白ご飯に青島ビール。マーボーがよかった。ベルヴィル公園の展望台には、小さなガラスが埋め込まれた柱があった。
夜にAさん宅。隣の家の大きな猫を見せてもらう。Yさんと旦那さんも来て、皆でマドンナ主演の「エビータ」をみた。ふしぎだ。暗い部屋に、映画を眺めるそれぞれの顔。大人と子供なんて、大人なんていないみたい。


8月14日 水 晴れ

少し体調も良くなくて、今朝は決めた時間に起きなかった。みそラーメンで冷やしあえ麺を作った。サッポロ一番のレシピだったけど、気付いたら、もう一袋は違うメーカーだった。混ぜてしまった。
夜はTさんが、ベルヴィルで買ったあぶら揚げで作ったつまみとビール。夜はこの世界だけで落ち着く。

8月15日 木 くもり

トイレに行くときふと思った。いつか自分に子ができたとして、子に何を伝えられるのかなと。興味のあることを持って、大切にしているものがあること、大人でも子供の心を持ったまま好きなことがあり、取り組めること、そういうものを身をもって伝えられるか。今何をして動くのかのひとつの指針になるかな。

 

8月16日 金

(朝担当の日ではないのに)朝まちがって朝食を作ってしまう。昼前に出掛ける。本屋のあと、行きたかったMéertというゴーフルのお店も、もう一軒のガレットの店も休みだったので、違うガレットの店に。ネコがいた。

 

8月17日 土

夜、Cさん来る。キーマカレーを準備していた。

 

8月18日 日

とても天気が悪い。部屋が暗い。アドラー心理学入門の本をずっと読んだ。夕方に出掛ける。モンパルナス駅へ6番線で。少し歩く。1ユーロくれおばさんに会う。あげなかった。青空があった。6番線でセーヌ沿いの駅に降りる。
そうだ、カーペットからものすごくごみというか、細かい細かい時間の積もったやつが出た。はたくと出るのだ。見えなかったものが。玄関先ではたいて、そのあとまだ足りないと思って、窓から出してハンガーではたいた。そうして床に敷き直したら、緑がふかまった感じに。足触りも気持ちがよいかんじ。

 

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8月13日 猫目、まっすぐに美しい

ひと月前の記ー8月の1

8月6日 火

1年が経った。できることしかしない。想像で生きない。今を生きるように。

 

8月7日 水

ロンドンから0時過ぎにシャルルドゴール空港に到着。入国審査官は自分のケータイに夢中でパスポートをろくに見ずにスタンプを押した。帰ってみたら家がきれいで、片づけて出掛けたことを思い出した。リュックの荷物は片付けて寝た。

 

8月8日 木

スイスでの安楽死を選んだ日本人女性の話の番組をみる。最後に姉妹に幸せだったという言葉を残して亡くなった。前夜の食事の光景、スイス郊外の病院に行く車内、死を選ぶこと、死へ向かう旅。しばらく忘れられないな。
夜は岩手で買った盛岡冷麺とビール。

 

8月9日 金 雨

大雨が降ってリビング側の植木鉢が雨でいっぱいになっていた。最後の方で雷も鳴った。

今日は1日キャリル・マクブライドの『毒になる母』を読み直していた。共感する心のなかった母。ずっと愛情が欲しかった自分。

 

8月10日 土 晴れ

朝8:00に起きれない。朝食は昨日の角煮。昨日より染みていてよかった。そうして晴れの風が吹いて午後になった。少し眠ってしまった。うで時計がロンドンの時間のままになっていたので、出かけた時間が4時だったか5時だったのか、あやふやだったけど、ともかく晴れた空の下を歩き出した。写真をいくつか撮ると、空がよく取れることに気づいた。地上に日差しがないのに、空ばかりが白い雲を明るくして眩しかった。
本屋、リュテス(ペタンク3組、サッカー1組)、本屋に寄った。最初の本屋でペンを2本買った。

 

8月11日 日

なんだかボロボロする心であった。気が落ちてゆくから早く寝よう。自分は自分の味方なので、散歩のときにみた空の色と木々にさした夕刻の光を目のうらに思い出して眠るように。

 

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8月10日 リュテス円形劇場を分かつ影

二角形

一瞬見えただけなのだが、すれ違った男性のTシャツに、こんな日本語が書かれていた。〔二角形〕青色の文字だった。二角形って……と、想像してみる。点を二つ置いて、その点点を線で結ぶ。それでおしまい。それはただの一本の棒。
存在しないかたちなのに、ことばだけがある。いつまでも彼の胸元に。

2019.06.08 11:36

gilets jaunes

私が、gilets jaunes「黄色いベスト運動」のデモについて知ったのは、恥ずかしながらとに学校の友人たちの話からだった。

シャンデリゼ通りのデモを見にいったんだって、危ないよね。という話から、どうやら先週1日(土)に大規模なデモがあったらしいということを知った。そしてその話を聞いた日、偶然シャンデリゼ通り近くで用事があったので通ってみることにしたのだった。

雨が時折強く降るシャンデリゼ通りは、一見していつもと変りがないように見えた。もう数時間もすれば並木に垂れるイルミネーションに明りが灯るのだろう。

しばらく歩いていると、並木の根元に黒い塊が落ちているのに気づいた。はじめは、土塊かと思った。なんとなく野焼きした時と同じ匂いが時々漂うような気もする。

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そう思いながら歩いていると、ニュースの撮影をしている場面に出くわした。アナウンサーの後ろを覗くと、カフェテラスが崩れていた。破壊されたものだ。

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その近くにバイクやレンタルキックボードの残骸も残されていた。

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黒い塊、焦げた匂い、これが私が触れたデモの跡だった。家に帰ってからやっと見たニュース映像で、デモでは火が放たれ、道のレンガが剝がされて投げられていたことを知った。通りのところどころにフェンスが立っていて、白い土がむき出しになっていたのを工事の途中だと素通りしていたのだが、あれもデモの跡だったのだとも気付いた。

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24日(土)の日は、職場でも朝から今日のデモはどこで行われるのだろうかという話がされていた。

仕事が終わり17時近く、メトロの7番線に乗ると「La Fayette」と「Opéra」は停車しないというアナウンスが入った。乗り換えの「Pyramides」で地上に上がってみることにすると、黄色いベストが2人登っていくのが見えた。ヘリコプターが低く飛んでいて、消防車がサイレンを鳴らして通っていった。にわかに雨脚が強くなり駅に戻ると、さきほどは見つけていなかったのだが、駅の各所に警察官が増えていた。物々しい感じがした。

家に帰ってニュースを見ると、先週と同じように、炎の上がる映像が続いていた。

 

こちらに来てから、積極的にニュースを見てこなかったことが恥ずかしい。アプリでテレビも見られるしラジオだって聞けるのだ。駅で配布されているフリーペーパーだってある。

できるだけ広く情報に触れていくようにしたいと思う。

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定期券

仕事上がり、帰り支度を終えたら、自分で注いだビールを手に、そろそろとカウンターの端の席に座る。すでに枝豆と茶碗蒸しとそしてクレームブリュレが、柔らかい木目のカウンターに並べられている。

 

どれくらいの時間をかけて一杯のビールを飲み終えたのか、まだ灯りの残るお店を出る。駅は路地を抜け、鋭利な曲がり角を折れればすぐのところにある。

この曲がり角のところには、いつもいるおじいさんが寝袋にはいってすっかり寝入っていた。

横断歩道を渡り、メトロへの階段を下る頃には、少し駆け足になる。駆け足になりながら、ポケットの定期券のプラスチックケースに手を触れる。

改札は定期券をかざしてから、バーを回転させて入ることができる。そのままの勢いで、かざすと同時にバーに手を掛けたところで、ぐんと前につんのめった。通らない時のブザー音が鳴った。何回かざしてもジッジーという音が響く。

たまに磁気が反応しなくなるのはよくあることだ。改札の窓口に後戻りをして尋ねると、駅員の女性は定期券を確認して、もう有効じゃない、と言った。

はっとして、時計を見る。12月がもう30分経っていた。

日本では期限日の終電まで有効だったけれど、こちらの定期券は月を跨いで、きっかりリセットされるものらしい。

券売機でチャージをしていると、後ろでいくつものブザー音が響いている。

つっかえた人たち。わたしと同じように何度もかざす人、戸惑いながら窓口へ向かう人、すぐに券売機へ戻る人、そして階段から駆け降りてきた人がまたブザー音と共につんのめる。だんだんとたのしくなってくる。

皆12月の始まりに立っていた。

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◻︎定期券Navigoは、その月の最初の日から最後の日までが有効。その月の、どの日に買ったとしても。

◻︎新しい職場で働きはじめました。